"嫌消費世代"と呼ばれつつ、「感動あるウェイ・オブ・ライフ」を希求する若者たち。かれらの価値意識とライフ・スタイルの背景にあるものは?

戦時下日本の倹約標語に、わずか一字加えただけの、パロディの傑作です。

ところで、1990年代以後に生まれた人たちの消費への関心低下が、しばらく前から指摘されています。それまで消費を牽引するボリューム・ゾーンに目していた、平均的所得のある若い人たちが、車を欲しがらずブランドはいらないと公言するので、マーケティング分野も『嫌消費世代』と呼んで、いささか当惑気味のようです。

嫌消費世代に見られる特徴は、従来、若者たちが消費牽引した、車・家電・海外旅行の"3K"に対して消費意欲が低く、衣・食・住を彩るゲーム、ファッション、食、家具インテリアなど、「誰かとつながる(Communication)」、「自己表現の個性を創れる(Creation)」、「仲間と共通の世界観にひたれる(Culture)」の"3C"の価値があるものを、選好購入するようです。その背後にある意識は、自分のスマートな価値観や行動様式の「カッコよさ」を誇示すること。さらに掘り下げると、消費自体を嫌っているのではなく、物的な贅沢を誇示することを嫌う意識に行き当たるようです。

嫌消費傾向への対応として、「スマート消費」という、製品の品質や価格よりも、生活テーマを深堀りした情報や提案を豊富に提供し、信頼感と共感を獲得するプロモーションで、消費意欲を刺激しようとする考えがあります。

スマート消費の鍵にはさまざまな提案がありますが、たとえば、コトラーとの論争で知られるスティーブン・ブラウンは、それを八つのEで要約し、相対性理論の方程式になぞらえて『E=MC2』と呼んでいます。

その八つのEとは、経験(Experiential)、環境(Environment)、審美的(Esthetic)、刹那主義(Ephemeral)、福音主義(Evangelical)、道徳的(Ethical)、風変わり(Eccentric)、限定的(Exclusivity)です。

「経験」は、感動を喚起できるような経験を促すことで、ファンタジーやフィーリングからのファン形成(3F)がポイントといいます。「環境」は、店舗の雰囲気とデザインでその経験を促すことです。「審美」は、商材が市場での芸術性をもっていること。「刹那主義」は、口コミ、SNS、ネットでの流行や熱狂がすぐ下火になりやすいこと。「福音主義」は消費行為自体に特別な有難味を付与することで、近頃では、ユーザ目線で啓発するPR職をエヴァンジェリストといったりもします。「道徳的」とは、購買行為に環境保全や社会援助など倫理性を加え強調すること。「風変わり」とは、供給側の尊大さやおもしろさを強調すること。

さて、「E=MC2」戦略では、「TEASE」という戦術がとられます。

まずは、①生活者を真実を誇張した「仕掛け(Trickey)」で引っかける。とともに、②期限と欠乏からの「限定(Exclusivity)」で生活者を狂乱させ、③噂になっていることを「増幅(Amplification)」する。④商材に謎を持たせ「秘密(Secrecy)」をもたせる。⑤以上の一連経験を快感に思わせる「エンターテイメント(Entertainment)」。 つまり、生活者を誘惑し追いかけさせて買わせ、驚きや変化の速さを経験させることで、生活者を購買に向かわせる。これが「TEASE」のあらましです。

この「TEASE」に誘発される、主観的に望ましい経験から快感を求める消費行動を「快楽型消費」とする見方があります。

ただし、嫌消費に対する「スマートな快楽型消費」を喚起する仕掛けには、日常生活で喜びを得る有効手段として消費する快楽と、お買得品や優良品や希少品を獲得できた功利的快楽に加えて、「カッコよさ」の誇示につながる、美意識や倫理性が不可欠です。

マーケティングで「快楽型消費」を検討する場合、生活者が商材とともに経験する感情を優先して絞り込むため、心温まる思い、幸福感、正義感、あるいは人生目的を達成する大きな喜びや充実感、誇らしさ、などの側面を二の次に置きがちです。

しかし、ICTリテラシーも高い世代の嫌消費層は、投稿サイトやブログなどで自分の"リア充(リアル生活の充実)"な、ウェイ・オブ・ライフをはにかみつつも誇示したいのです。このことを考慮に入れれば、マズローの「欲求段階説」の上位欲求を満たす、審美や倫理などの規範にもとづく感動体験と共感喚起につながる刺激要素が重要になります。

環境制約から物質的成長が望めそうもない今、物質的には横ばいでも、心の豊かさを成長させることで質的な発展を図る考え方と、これからの社会生活や経済・ビジネスには、感動があり、ともに心の豊かな社会を成長させることが大切なことを、「嫌消費」は問うているのかも知れません。